「私、心配なんです」
―― 後継者となった、娘さんの声。
数ヶ月前に、社長から長女を後継者に決めたと聞いていました。
再度、社長にお会いするために伺った日、ちょうど入口ですれ違った娘さんに、ご様子を伺ったときのことです。
「お父さん、何も教えてくれないんです。
取引先や銀行には、いくつか同行しました。でも、何も説明してくれない。
『考えればわかるだろう』ということみたいです。
―― でも、今までどうやっていたかは、考えてもわかりません。」
だいぶ不安そうに見えました。
社長にも、さりげなくお聞きしてみました。
「ちゃんと進んでいますよ。大口の取引先には一通り連れて行きました。
まだ教えていないことも残っていますが、大枠はわかったはずです。
私なんか、何もないところから、一人で今の会社を作り上げた。
社長は人から教わるものではありません。全責任を持つのですから。」
社長は、すでに大枠の引継ぎを終えたつもりのようでした。
―― けれど、娘さんの不安は、消えそうにありませんでした。
引き継ぐ側は「考えればわかる」と言う。
引き継がれる側には、ブラックボックスにしか見えない。
せっかくやる気になったのに、モチベーションが下がっていく。
―― こういうケースが、本当に多いのです。
なぜ、「DXから始める事業承継」なのか。
事業承継というと、一般的には相続税対策や自社株といった「お金の問題」がフォーカスされます。お金の問題は大きな問題で、税理士・弁護士の力なくして解決できません。
ですが、そこだけ解決できたとしても、事業承継がうまく進むわけではない。
多くの場合、その手前で「人の問題」が詰まっていて、一歩も進まなくなっているのです。
人の問題は内部で解くしかなく、外部からは支援しにくい。だから、金融庁の政策でも、M&A への誘導が進んでいます。―― 言い換えれば、「M&A」というお金の問題に、すり替えられている。
社長の若いころと今では、外部環境がまったく違います。人は採れないし、採れても定着率が低い。特定の要員に依存して業務を回すやり方では、業務がブラックボックスになる一方です。ブラックボックスを無くし、可視化されれば、パートや派遣社員でも回せる業務がある。 社員でなければできない仕事も、見直す必要があります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なるデジタル化や効率化ではありません。経済産業省は、3つのステップで進めることを提唱しています。
- デジタイゼーション ― アナログ・物理データのデジタル化
- デジタライゼーション ― 個別業務・製造プロセスのデジタル化
- DX ― 組織横断・全体の業務/顧客起点の価値創出のための事業・ビジネスモデルの変革
引退が視野に入る年齢になって「DXをこれから始めましょう」と言われても、「それはちょっと無理です」が本音ではないでしょうか。DXは、次世代経営者が取り組む課題です。
だからこそ、考え方を変えてみませんか。
―― 一旦自分のクローンを作ってから、後継者に「DXはよろしく」というのではなく、DXを進めながら、次世代の経営陣へ引継ぎをしてしまう。そのほうが、ずっと話が早い。
仕組みづくりには時間がかかります。後継者を指名する前に、若手主導でDXに着手して、今の幹部社員も全面サポートしながら進めていく。後継者は DX を進める過程で最終的に選べばよい ―― そうすれば、新しい経営が立ち上がるところまで現社長が関与でき、安心して椅子を譲れます。
仕組化・組織化が機能し始めるのを見届けてから、社長の椅子を譲る。
後継者も、不安なく新しい経営を進めていける。
―― 私たちは、その順序を、社長と一緒につくります。